『Zeche Westfahlen I/II Ahlen』
畠山直哉
Nazraeli Press刊 6,500円(税込)
タカ・イシイギャラリーで、畠山直哉の個展を見た。彼が2003年10月から翌年2月にかけて、ドイツ・ミュンスター南東部の旧炭鉱都市Ahlen(アーレン)に滞在し、廃棄された工場内部、そして爆破によるその解体の光景を撮影したものだ。かつて国家と資本主義の基幹産業であった鉱工業は、地球上に異様な人工都市や建物を出没させた。しかし、それは衰退してゆく。彼は、その記録を依頼され、写真に撮り、作品化する。僕は、巨大に引き延ばされ、額装された写真の前で自問自答する。「これは、誰のための、誰に向けられた写真なのだろうか?」と。たしかにこれは工場の「肖像写真」だ。そして「人類の記憶」のための写真だ。畠山は、決して、産業遺産のタイポロジーという「コンセプト」で撮影しているわけでも、廃墟の「美学」に惹かれて写真にしているわけでもない。撮らなければ、ないことになる、という「起源の写真」に関わる作家として、淡々と、工場を撮るのだ。畠山は、写真にとどまり、写真を撮ることを選んでいる。それこそが彼の言う「希望」であり、私を打つ「切なさ」でもあるのだ。