『おとこと女』復刻版
細江英公
NADiff 3,990円(税込)
写真は、ある時、ある場所で撮られる。その作業は、時間にすれば、そう長いものではない。瞬間といってもいい時間。しかし、その映像・イメージは、時として、成長し、永遠の命をもち得てゆく。フィルムとプリントと光と銀の作用が、それをつくり出してきた。しかし、もうまもなく写真は、すべてデジタルに移行する。そんな中で、1961年の細江英公の写真集がNADiffにより復刻された。モノクロの薄い小冊子。しかし、それを見た者は皆、忘れられなくなるだろう。もちろん、今からすれば、花をくわえた女やアングラ劇風の設定は、時代を感じさせもする。しかしここに写しとられたものは、まごうことない、男という動物と女という動物。そしてその2つの出会いの景色だ。この写真集で細江英公は1960年、日本写真批評家協会新人賞を受賞するが、そのパーティでこうスピーチした。「私のこんどの《おとこと女》は、暗闇のなかでおこなわれる、人間のドラマ、密室のなかの儀式のようなものを捉えようとしたものです。しかし、このつぎの《おとこと女》は、もっとひろい、空と大地と太陽の明るさのなかへもっていこうと考えています」。闇と太陽の往復運動。おとことおんなというモチーフは、写真にとって普遍的なものであり、細江が撮り尽くしたものではない。荒木経惟ならば、ロバート・メイプルソープならば、もっと倫理の彼方まで、死の果てまでもこのモチーフを追撃する。事実、1960年以降の写真史の数々の事件は、それを示している。僕はこの細江英公の「おとこと女」を愛する。なかでも、女たちの顔のアップ写真は、忘れられないエクスタシーがある。しかし、だからといって、もっともっと見たいのだ、「おとこと女」の写真を。それは、細江英公へのないものねだりの注文ではなくて、写真に対するものだ。この写真集はすばらしい。そして、やる気を出させてくれる。さあ、始めなくてはならないぜ、それぞれの人による続「おとこと女」の写真の世界を、さらなる儀式の写真をね!!