『東京人生』
荒木経惟
バジリコ刊 1,575円(税込)
『サナヨラ』
大森克己
愛育社刊 2,625円(税込)
写真が他のアートフォームに比べて素晴らしいのは、現実との交点の中で、自分と他者が入りまじったものを生けどりにできることだ。最近でこそ、写真においてもコンセプト重視の流れも強いが、しかし、写真の写真らしさは、その生々しさ、いかがわしさを孕んでいるところにある。荒木さんと大森君の写真集を同列で扱うのは乱暴だが、敢えて言えば、これらの写真集の素晴らしさは、世界を世界のまま捉えようとしていることだと思う。荒木さんは回顧的に編集されてはいるが、写真自体には「すべて」が写しとられているし、最近では中沢新一とのアースダイバーで有名になった大森君もまた、「そこにある得体のしれない何か」を生けどろうとしている。両者とも、世界が流動的に見せる不定形な貌を、なんとか鷲掴みにすることを、あきらめない。大森君のタイトルにもなった「サナヨラ」は、彼にとっての、世界への新しい「あいさつ」であるが、僕らは、この廃墟化する星へ、もう一度「新しい旅」を目論まなくてはならないのだ。そして荒木さんもまた、つねに世界を受け入れ続ける。そう、写真人生こそが、めざすべきものなのである。