記録的に長かった梅雨が終わりを告げた。ホテルの窓からは、鏡のようなガラスで覆われた高層ビルが何本も見え、そこに青空と白い雲が映りこんでいる。
街はギラギラと輝く太陽に焼きつくされている。もうあの毎日、重苦しい雨空をなつかしむ人などいるわけがない。季節は、はっきりと変わった。狂った季節へ。
僕は無類の「晴れ男」で、どんな雨の日でも、僕がその場所に行けばやがて晴れてしまうという特殊能力の持ち主だが、実はくもりや雨の日が嫌いではない。なぜなら、はしゃぐ気も失せ、気持ちが落ちつき、おそらく皆もそうであって、かかってくる電話の本数も、めっきり少なくなる。
僕は8月生まれ、獅子座。だから夏は僕の季節だが、夏は梅雨の時よりもメランコリーだ。太陽が明るければ明るいほど、哀しい気持ちになってしまう。まるで、芭蕉か誰かが生きていた昔の人のように、真っ青の夏空を見ると、季節の翳りを強く感じてしまう。
夏は、別れ。夏は、死。夏は、カオス。夏は、狂気−−の季節。太陽は、僕には、太陽の塔の裏側に描かれた「黒い太陽」にしか見えない。太陽は笑っている。でも、それは残酷な笑い。アンチヒューマンの笑い。
昨夜、ピアニスト・向井山朋子のコンサートに行った。そして今、ホテルで彼女のヌード写真がジャケットになった「WOMEN COMPOSERS」を聴きながら、森茉莉の『甘い蜜の部屋』を読み終えた。メランコリーに淫する快楽の時。
ホテルの窓から外を見る。鍛冶橋交差点に車が行き交うたびに、夏の強い日射しの下で、白い紙くずが、風に舞い上がり、一人遊んでいる。