新幹線にのりながら本を読んでいるうちに、寝てしまった。目がさめて左側の窓を見る。高速で飛び去る景色。再び本へ帰ろうとした時、体の中で、何か記憶が動く。
何かを思い出しそうになる時の、あの、なんともむずがゆいような、不思議な快感のある、あの感覚。
窓の外に目をやると、街や森や山や田畑にどこまでも明朗な光があたっている。
光が僕に作用するのだ。
いつ、どことは定められないが、春の、夏の、記憶として、貯蔵された景色が、瞬きのように生起し、消えてゆく。
その時、興味深いのは、ある具体的な場所があらわれるということだ。どこかの四つ辻であり、草むらであり、河原でありという具合に。それは、僕がポラロイド写真を撮る時に似ている。いや、僕が撮るポラロイドは、ある場所への追憶なのだろう。けれど、それは過去へ旅しようというのではなくて、未来へ向かえ、という問いに似た声に導かれ、進もうとする時に生起するのだ。光の作用は未来への力を生む。
冬は終わるのだ。
僕ははじめて、たったいま、春の到来を感じる。